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アネモネ手帖

小説家・三木笙子のブログ

「人間国宝になって損した」『職人衆昔ばなし』斎藤隆介(文藝春秋)

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明治生まれの職人というと、頑固で名人気質で凡人とはかけ離れているというイメージがありますが、『職人衆昔ばなし』の中でも一際異彩を放っているのが蒔絵の人間国宝・高野松山さん。

旧藩侯細川侯邸に居候三十年。
三十年も住んだらもはや居候ではないような気がします。

わしは、七年前に最初の「重要無形文化財保持者」というのに指定されて蒔絵の技術で「人間国宝」タラいうものになった。なって損バこいた。(中略)芸術院会員は年金があって銭ンも来るし汽車にもタダで乗られるが、「人間国宝」ナ、なんも来ん。ほんになんも来ん。

昭和39年からは年金がおりることになったそうですが(このインタビューの2年後)、高野さんの文句が功を奏したのでしょうか。

教師(美校)としてわしはあんまり良い教師じゃなかったかもしらん。いつも出席簿をとらずに、一年分まとめてつけるもんだから死んだ学生が皆勤していることになって、学務課から文句を言われたことがある。

さらに、

月給は十四年のうち、三回減棒されて、ふつうの男ならおればおるほど増えるのに、わしはおればおるほど減ってしもうた。ン?ああ減俸の理由?一度はわしが裸踊りをしたことと、もう一度はスキーに行った赤倉で、学生達にみんなパンツをぬがせて、それを南部の殿様と、佐野伯爵や二人のお嬢さんに見せたというのが理由――。あれは見といたほうが令嬢たちの役に立つんだがのウ……。

そしてさらに、

それにわしは、失礼にならんように、ソノモノの先に水引きを結ばしといたんじゃが、やっぱりいかなんだ。

天衣無縫な人間国宝です。
そんな職人衆ばっかりってわけじゃありませんけど、面白いので読んでみてください。