作家の書斎 : 「図書整理術など不可能な、混沌、乱雑、無秩序、錯乱」
この本の表紙裏が上記の写真で、辻邦生先生の書斎です。
蔵書はもちろん、ここにあるだけでなく、
最近は、本が床から積み上がっているため、雪の道に細く掘った通路よろしく、机からドアまで、本の間を横になりながら、すりぬけなくてはならない。
よろけようでもしようものなら、本の山は、春先の谷川岳の雪崩よろしく、音を立てて崩れる。
『微光の道』辻邦生(新潮社)「図書整理術など不可能な、混沌、乱雑、無秩序、錯乱」
よくよく写真を見るとご自分の写真も飾られていて、さすがは美男子です。
私は速読と熟読と二段構えで仕事をするが、昔とちがって、どちらで読んでも、頭からぬけてゆく速度に変りがない。
仕方がないので、本の背に、その論旨をマジックで一言で要約して書いておく。
細かくカードやノートをとっても、ときには、また新しく取りかからなければならないこともある。
要は、何がどこにあるかをきちんと押えておくのが図書整理法の要点と心得て、一目で分かるようにする。
そのためには、背中が見られないと困る。
図書整理とは本の背を見ることと割り切る以外に方法がない。
おそらくその辺が学者と小説家の相違があるのだろう。
われわれ小説家の場合には、本も音楽も美術も作品世界の情感を濃く湛えるというのが第一目的なのであり、知識自体のために追及することはない。
『微光の道』辻邦生(新潮社)「図書整理術など不可能な、混沌、乱雑、無秩序、錯乱」
私には夢見る力がまだまだ足りなくて、「作品世界の情感を濃く湛える」ためには、現代から遠く距離を取る必要があります。
私の好きな優しくて穏やかな雰囲気が現実に負けてしまうのです。
そのため作品の舞台を過去にしているのですが、結果的に資料が沢山必要になり、いまだに手探りで資料調べのやり方を学びながら書いています。
今週の一枚「部屋」