アネモネ手帖

小説家・三木笙子のブログ

「彼は、過去った事は一切忘れてしまうらしい」

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上司がタダ券をゲットして、オペラを観に行ったそうなのです。

 

上司「素晴らしかったよ。人間の声って凄いね」
ワタシ「何てタイトルですか」
上司「えーと、何だったっけ」

 

その後、「実は行ってないんじゃないか」疑惑が巻き起こりました。

悟空の今一つの特色は、決して過去を語らぬことである。というより、彼は、過去った事は一切忘れてしまうらしい。少くとも個々の出来事は忘れてしまうのだ。その代り、一つ一つの経験の与えた教訓はその都度、彼の血液の中に吸収され、直ちに彼の精神及び肉体の一部と化してしまう。今更、個々の出来事を一つ一つ記憶している必要はなくなるのである。

 

山月記・李陵』「悟浄歎異」中島敦(岩波書店)

 つまり、「良かった」ということさえ覚えていれば、何が「良かった」かなどどうでもいいことなのか。
中島敦の高雅な文章を読んでいると、ついそう思ってしまいますが、他人に勧めるときはまったく説得力がなくなるので、美味しいレストランの店名とか、面白かったマンガのタイトルとか、綺麗だなあと思った女優さんの名前くらいは覚えていようと思いました。

 

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)

山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)

 

 

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