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アネモネ手帖

小説家・三木笙子のブログ

「なるべく苦労しないようしないように」 : 『続・職人衆昔ばなし』 斎藤隆介 (文藝春秋)

資料

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『職人衆昔ばなし』『続・職人衆昔ばなし』で紹介されている職人さんは、一般的にイメージされるところの、いかにも職人らしい職人さんがほとんどなのですが、大工の小林丹治さんは違います。

 
「ガクもなくカネもなくヒマもないあたしが、どうやら食う心配もなくて、ひと様のお世話をすこしずつでも出来るようになった」のは、

第一に、苦労は兵隊までに仕上げちまったこと。そして「若いときの苦労は買ってでもしろ」なんていうが、そのあとはなるべく苦労しないようしないようにと立ち回ったこと。


第二に、いくら腕がいい、なんて自慢したって、職人は職人だから、早くツボカネの術をおぼえて棟梁になっちまおう、使われるんじゃなくって使う身になってやろう、こう決心したこと。

そもそも宮大工だったお師匠さんが、「もうこれから世に出るにゃァ宮大工なんぞでなくって普通の家をやれ」と言っていたそうで、八堂伽藍のような大建築は見向きもせずに、どうすれば家一軒をまとめられるか、それだけを考え抜いていたところ、百二十年も続く大工の家の婿養子に迎えられます。これが二十一のとき。

いくら仕事がうまいからって、注文がなけりゃァそれまでだし

身に沁みるお言葉です。

あたしは四十の声を聞いてからは一切仕事には手を出さないで、ノミやカンナとは縁を切った。

うわあ、四十すぎちゃったよ。

貧乏じまんの腕じまんなんて名人気質の職人流は、あたしゃァちっとも感心しない。それより親方になって、腕の良い職人に腕をふるわせて商売する方が、なんぼ面白えか分からねえ。

一生懸命に技術を磨くという生き方は称賛されることが多いと思いますが、それで食べていけるかどうかは別問題です。
年を取れば体力が衰えてくる。
体力が衰えれば気持も弱くなる。
小林さんくらい割り切って考えるのも難しいのですが、このインタビューを読むたびに「頑張る方向性」というものを考えさせられます。

っていうか、本当に頭のいい人はそんなこと、とうの昔にに分かっているんでしょうけどねえ。
トホホ。

 

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