アネモネ手帖

小説家・三木笙子のブログ

何かにのめりこんでいるとき「ホントに好きでやってる?」と自分に問いかけてみる

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これ凄い、滅多に見ないよ、絶対にないわと思っていたら、世の中には案外たくさんあって、というよりどこにでもあって、宝物のように大切にしていたのに、突然、路傍の石のように見えてしまうということがあります。
物や人、アイディアに始まって、喜びや幸せまで、あらゆる場所に埋まっている地雷です。

 
『亡命ロシア料理』という本を読みました。
訳者あとがきによれば、

ソ連から亡命してアメリカにやってきたロシア人の文芸批評家が、アメリカの不味いジャンクフードを罵倒しながら、故郷の味を懐かしみ、本物のロシア料理の作り方を読者に伝授するとと同時に、ロシアとアメリカの両者を視野に入れた文明批評を行った本

私の印象では、「罵倒」というほど強くはなく、「強い嫌味」くらいか。

われわれはみな、鶏肉は牛肉や豚肉よりも高価で上品で格式が高いと思い込んで育った。畜肉がふんだんに出回った年に、牛肉は一キログラム当たり一ルーブル九十〇ペイカだったが、一方、鶏には一羽につき二ルーブル五〇カペイカ払わなければならなかった。(中略)
イタリアでもう、はっきりわかったことがある。
(一九七〇年代のソ連からの西側への亡命者(主にユダヤ系の移住者)の多くは、まずオーストリアやイタリアに出て、それからアメリカに渡った)
長年の間、われわれは無知の闇に閉じ込められていたということだ。結局のところ、鶏肉はジャガイモよりも、バスの切符よりも、郵便切手よりも安いものだった。


『亡命ロシア料理』ピョートル・ワイリ/アレクサンドル・ゲニス(未知谷)

ソ連人にとってマグロは、エキゾチックな海の幸の一つだった。(中略) だから、そんな珍しい魚が、ハゼやアカヒメジとならんでオデッサ・トリオと呼ばれている、あの低級なサバの仲間だとは考えてもみなかった。
もっとも、西側の小説を訳すとき、翻訳家はただのサバでさえ大西洋サバなどともったいぶって呼んだものだ。この二つが同じ魚だとは、亡命してはじめて分かった。
サバ同様、亡命後にかつての栄光を失ったのが、マグロである。


『亡命ロシア料理』ピョートル・ワイリ/アレクサンドル・ゲニス(未知谷)

みんなが珍しがっているから、数が少ないからという理由だけで大事にしていると、それがそうでもないと分かったときに、あっという間にそれの地位が転落します。
でも、自分が本当に好きで大切に思っているなら、状況の変化に影響は受けません。
何かにのめりこんでいるとき、「ホントに好きでやってる?」と自分に問いかけてみるのは、時間の節約のためにも結構重要なことかもしれません。

「人生は人間に一度しか与えられない。だから、処方(レシピ)を間違えずに生きなければならない。」(ヴェネジクト・エロフェーエフ)


『亡命ロシア料理』ピョートル・ワイリ/アレクサンドル・ゲニス(未知谷)

余談ですが、この本に収められた各エッセイのタイトルはかなり遊んでいます。
「ハルチョーをちょーだい!」とか「スメタナを勧めたな!」とか。
好きですけどね、このぐったりくる感じ。

 

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