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アネモネ手帖

小説家・三木笙子のブログ

決してかなわぬ想いならばいっそ貴方になってしまいたい : 『囚獄のヴァニタス 1』 秋月壱葉 (講談社)

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記事のタイトルは、1990年に発売されたGO-BANG'S(ゴーバンズ)の『グレイテスト ビーナス』に収録された「荒野のエピローグ」のテーマです。
このアルバムの曲はどれも変わっていて好きでしたが、特にこの「荒野のエピローグ」は今でも大好き。

 

何しろ、好きな相手の真似をしているうちにどんどんそっくりになっていって、とうとうその人になってしまうという、人の想いの極北です。

 

好きな人がいる、その人に愛されたい、しかしそれが無理なら、その人になってしまえ!


「こんなこともあるんだなあ」と、当時中学生だったワタシは遠い世界の出来事のように思ったものですが、あれから四半世紀経った今、やはり遠い世界のお話のように思っています。


(ここからネタバレになります。ご注意ください)


『囚獄のヴァニタス』では、人間の執着が形となり力を持つようになった「宿悪(しゅくあ)」が殺人事件を引き起こします。
第一話では、自分の容姿に強いコンプレックスを持っている女性が、美しい顔そのものを奪うようになっていきます。


が、自分の顔は不細工だから美人になりたいなあ、という気持は物凄くよく分かるのですが、そこから先に共感できません。
誰かになんかなりたくないのです。
私が、私のままよくなるのでなければ意味がない。
私の名前と私の経験を背負った私自身がバージョンアップするのでなければ、良くなったところで何が面白いのか。
「荒野のエピローグ」を遠く感じた私は、やはり「他人になる」という考えに同調しないのです。


しかし、共感しないからといってそれがつまらないというわけではありません。
15歳だったワタシが「荒野のエピローグ」を聞いて強く心惹かれたように、その分からない、他人の抱える執着を見てみたいと思うのです。
人の心というものを見てみたい。


が、私は読者に「優しくて暖かな雰囲気」「心地よい哀しみと快い切なさ」「読後感の良さ」を提供したいと常々書いていますが、自分に対してもそうで、怖い話とか辛い話とか、全然受けつけません。
うっかり嫌な話を読んじゃったりすると、平気で一年くらい引きずるんですよ。


でも、秋月壱葉先生の絵はとても綺麗で、醜いものが描かれているはずなのに、思わず美しくさえ感じてしまいます。
絵がうまいって本当に凄いことですね。
人の心の闇というドラマを、美しいビジュアルで視聴可能にしてくれる――そんなマンガなのです。


それからもちろんキャラクターも素敵で、熱血漢の刑事さん(九鬼正義)と謎の美少年(笘篠世恢)がコンビを組んで事件に立ち向かいます。
まだ一巻なので、二人の背景は分かりませんが、人は人の心に絶望しても、やはり人の心に救われるのだろうなと予感させます。

 

囚獄のヴァニタス(1) (KCx)

囚獄のヴァニタス(1) (KCx)

 

 

【三木笙子プロフィール】

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デビューした時から「仕事や勉強の後にほっとした気持で読むことができる小説」を目指してきました。

読者に「優しくて暖かな雰囲 気」「心地よい哀しみと快い切なさ」「読後感の良さ」を提供したいと思っています。

好きな作家は辻邦生平岩弓枝浅田次郎

 

★「三木笙子の新刊・既刊」に三木笙子の詳しい仕事情報をまとめています