アネモネ手帖

小説家・三木笙子のブログ

「文学には労働に追われる日々の生活からの逃避以外のなにものも求められてはいないのだ」 : 『悠久の美 ペルシア紀行』ヴィタ・サクヴィル=ウェスト

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(ジャン・リュック・ゴダール監督・脚本の『勝手にしやがれ』のネタバレがあります)

「映画は感動だ」と信じている若いミツちゃんは、映画館は、日常生活を離れ泣いたり笑ったりしながらしばし夢の世界に遊ぶ空間だと理解していた。
そのために安い給料の中から高い入場料を払ってジャン・リュック・ゴダール監督・脚本の『勝手にしやがれ』を観にいったのに、なによあの映画は、自動車泥棒の主人公が、最後は背後から警官に撃たれ、「まったく最低だ」と言いながら自らの手でまぶたを閉じる。
あれが格好いいと思っているの、最低よ、とヌーベルバーグを心から嫌った。


『神楽坂ホン書き旅館』黒川鍾信(新潮社)p237

 

それにしても、この書くという作業は、なんと奇妙で、割りの合わない労役であることか。
審判員は、文学の決まりごとなどなにも知らない一般大衆である。
それが文学作品を、大衆的な基準によって、単純に人間的な、ごく日常的な基準によって評価をくだす。
ハッピーエンドに終わらない小説について、「そう、いいね、たしかにいい本ですよ。でも暗いな」などと言っているのを聞く。
そこでは、技巧も、個性的で斬新な視点も、まったく問題にされない。
これでは、文学には労働に追われる日々の生活からの逃避以外のなにものも求められてはいないのだ、と信じざるをえない。


『悠久の美 ペルシア紀行』ヴィタ・サクヴィル=ウェスト(晶文社)p24


おおよそ想像がつくと思いますが、ヴィタ・サクヴィル=ウェストさんは19世紀末、イングランド屈指の名家サクヴィル男爵家の生まれです。


『悠久の美 ペルシア紀行』を読んだ後、『神楽坂ホン書き旅館』を思い出し、地平線に向かってまっすぐ伸びる二本の道を想像したので、この2冊を本棚に並べて置きました。
どこかで交わったりするのかな。

 

【三木笙子プロフィール】

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デビューした時から「仕事や勉強の後にほっとした気持で読むことができる小説」を目指してきました。

読者に「優しくて暖かな雰囲 気」「心地よい哀しみと快い切なさ」「読後感の良さ」を提供したいと思っています。

好きな作家は辻邦生平岩弓枝浅田次郎

 

★「三木笙子の新刊・既刊」に三木笙子の詳しい仕事情報をまとめています

 

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