アネモネ手帖

小説家・三木笙子のブログ

【新刊情報1】18年8月30日発売 『帝都一の下宿屋』三木笙子(東京創元社)

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右 : 仙道湧水(小説家)
左 : 梨木桃介(下宿屋「静修館」の大家)

「いずれ先生も所帯を持つんだから、覚えといて損はないよ」
「その所帯とやらで、ここと同じくらい美味しい食事をいただくことはできるのでしょうか」
 真剣に考えこんだ湧水を見て、桃介が噴き出した。
「静修館に一生いるつもりじゃないだろうね」

今作は、世話好きで家事万能の大家・桃介と、「静修館」の下宿人のひとりである小説家の湧水が主役のミステリーです。
桃介に心酔している湧水が、桃介のためならばと事件を解決していくのですが、いつも原稿を催促している担当の坂口正孝は、

「先生は探偵をなさっていたほうが調子がいいのでしょうか。それでしたら、私は全力を挙げて様々な揉め事を探してきます」

 

第一話 永遠の市

贔屓の醤油醸造家が粗悪品を作っているのではないかという疑いをかけられて気落ちしている桃介を見て、湧水が調査に乗り出す。

「大根を見ると、また冬が来たなって思うんです」
 季節は帰って来る。
 大根河岸で売り買いされているのは、青物という形をした季節なのだ。
 季節という名の永遠なのだ。
 今年も同じように姿を見せ、そして次の年も、また次の年もそこにあると信じさせる、めぐりゆく季節は人の願いそのものだ。
「変わらないものはありませんけど、河岸を見ていると、もしかしたらそういうものがあるかもしれないって思えるんですよ」

 

第二話 障子張り替えの名手

高額な特許の書類が盗まれたが、現場にいた人間のうち誰が犯人か分からず、書類も見つからない。知人の女性が困っていると知った桃介に頼まれて、湧水は渋々事件を引き受ける。

「他人の不幸を小説の種にしろってか」
「有り体に言えばそのようなことかと」
「断ってこいよ、そんな話。品がねえだろ」
「大丈夫です」
 坂口がきっぱりと言った。
「仙道先生ご自身はまるで品がありませんが、作品は典雅そのものです。先生の詐欺師のような手にかかれば、この世のどうしようもない出来事も美しい物語へと生まれ変わるでしょう」

 

第三話 怪しの家

魅力的なのに、どういうわけか借り手の決まらない貸家の謎に、湧水と下宿人たちが挑む。「帝都探偵絵図」シリーズの里見高広も登場。

「そういえば、これも女難っていうのかな。今朝、火事になった家だよ。ずいぶん変わった家でねえ」
「どんなふうに変わっているんでしょう」
 博信が如才なく訊ねた。
「どんなって――うん、そうだ」
 秋草が横手を打った。
「ずっと気になってたんだよ。皆に聞いてもらってもいいかい。もしかしたら、誰かがうまい説明をしてくれるかもしれないし。(後略)」

 

第四話 妖怪白湯気

東京市内の湯屋で多額の現金や宝飾品が盗まれる事件が多発していた。そんな折り、湧水は担当の坂口が会社を辞めるのではないかと聞かされる。

「桃介さんからうかがったんですよ。今度の作品の舞台は湯屋ですか」
「お前に関係ないだろう」
 湧水は坂口に背を向けると、文机の前に座り直した。
「お前がいなくなりゃ、ゆっくり原稿がやれるな」
「ええ、きっと」
 坂口は暇乞いをすると静かに部屋を出て行った。


表紙は、

【装丁】西村弘美さん

http://nishimura-h.jimdo.com

【装画】yocoさん

http://ocoy.tumblr.com/

に作っていただきました。
とにかく丁寧!そして美しい!是非お手にとってみてください。

 

★8/28追記分(↓)

anemone-feb.hatenablog.com

 

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帝都一の下宿屋

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