アネモネ手帖

小説家・三木笙子のブログ

一読しただけでテンションが上がる容姿の優れた男性をいかに描写するか

私好みの美男子を出したくて小説を書いているようなものですが、まさか「イケメン」と形容するわけにはいかず、どんなふうに書いたら説得力があるか勉強しよう、というのが今日のテーマです。
手元にある小説から選んだのですが、たまたま全員男性作家でした。
なお、外見の描写のみピックアップしています。

 


まず一人目は、『背教者ユリアヌス』のサルスティウス。

背教者ユリアヌス (中) (中公文庫)

背教者ユリアヌス (中) (中公文庫)

 

サルスティウスは五十歳を二つ、三つ越えた、背の高い、がっしりした身体つきの人物で、浅黒い、端正な、彫りの深い顔をしていた。彼が宮殿の廊下を歩いてゆくと、すれちがう女官たちの顔に、不意に水でも飛び散ったような、はっとした表情が浮かんだ。

この他にも「美貌の財務官」「財務官の端正な顔」などと形容されています。
私が「美貌」「端正」という単語に弱いのは、間違いなくこの小説のせい。

二人目は『鳴門秘帖』の法月弦之丞(のりづき・げんのじょう)。

鳴門秘帖(一) (吉川英治歴史時代文庫)

鳴門秘帖(一) (吉川英治歴史時代文庫)

 

天蓋を払ったその人物、漆黒の髪を紫の紐でくくった切下げ、月のせいもあろうか色の白さは玲瓏といいたいくらい、それでいて眉から鼻すじは凛とした気性の象徴。
年は若い、恋にも功名にも燃え立ちやすい青年である。何流をやったか、今見せた腕の冴えといい、宵を流す一節切の風流といい、ゆかしくもあるがあまりに美男な色虚無僧。その珠玉をつつむ天蓋はおそらく仇を避けるためでもなく、また宗門の掟にでもなく、旅から旅への一節切、浮気につきまとう仇情の女難除けであろうかもしれぬ。

ゴージャスな描写に圧倒されます。
顔を隠している天蓋(虚無僧がかぶっているカゴのような物)を取ったら美しい顔が現れるって、ほとんど闇討ちに等しい。

三人目は『天切松闇がたり』の黄不動の栄治。

天切り松 闇がたり 2 残侠

天切り松 闇がたり 2 残侠

 

身の丈は六尺、きょうびでいうなら一メーター八十は優にあろうかてえ偉丈夫で、色は浅黒く、目鼻は秀で、ちょいと見には外人みてえな男前だった。口数は妙に少ねえ。そのかわり、白目の勝った三白眼が、口にかわって物を言った。役者にしたって一枚看板を背負いそうなその男前(後略)。

秀でた眉といい、靭く通った鼻筋といい、いつも刃物でもくわえたようにきつく結んだ口元といい、ダグラス・フェアバンクスとそっくりだ。

きりっと結んだ口元が特に印象的です。
歌舞伎とハリウッドを足して2で割ったような印象を受けますが、足して違和感のないのが凄い。

引用していると、学ぶというより、単純に楽しいですね、これ。